ISBN:978-4-16-382500-7 単行本
万城目 学 文藝春秋 発売:2013/9 1,995円

今回の主人公は忍者です。
時代が江戸になってから少し経った頃、
戦乱も終り、忍びの必要性が揺らぐ中で
主人公は結果的には体よく伊賀を追い出されて
一介の京の民として暮らす羽目に。
とは言っても定職はなく、
住まいは京の外れのあばら家という状態。

何とか日銭を稼いだりしつつ、
普通の民としての生活に慣れてきた頃に
また忍びとしての任務に引き戻されたり、
時には雲の上の存在から、
時には得体の知れない存在から妙な依頼を引き受けることになったり。

舞台は伊賀から京、京から大阪へと
事件や出来事は次々と繰り広げられていくのだけれど
そこに軽妙さを感じる部分と
元の自身の主や役割とのつながりの中で葛藤や息苦しさを感じる部分ありで。

そこそこ残酷な描写もあるのだけれど
それもまた自分達が歴史という形で学んできた事の
現実的な状態なんだと改めて気付かされたりもしました。

そして散り散りだと思われた出来事や事件が
1つに結びついていく中で
知らなかった事実が明らかになったり、
物凄く大きな事態に巻き込まれていきながら
主人公及びその周囲の人物達はどうなってしまうのか
と予想しきれずに読み進めていった感じになりました。

正直分厚さに読むのをしばらくためらっていましたが
それほど長さを感じずに読めた1冊だったような気がします。

ISBN:978-4-16-376130-5 単行本
能町 みね子 文藝春秋 発売:2013/2 1,260円

今いるところに居心地が悪くなって
それが溜まりに溜まった時に発動される
北へ逃げたくなる衝動、「逃北」。
東北に限らず北海道や遠くははるか海外まで。
現地で観光というところまでのことはするとは限らず、
突発的ならでは行き当たりばったりが占めている部分もあり。

自分は作者と違って北の方には何のルーツもないのだけれど
しんどくなった時に逃げたいなぁと思うのは
南の島よりも北の方で
ここ数年、実際に週末や3連休に
青森や岩手を中心に幾度となく歩き回って
得体の知れない心の平安を得ていた部分があるので
共感を得られるところは多々あったかなと思います。
地元の人間のように見られたいとか、
(実際に道を聞かれたことがあるけど
 行きたい先以外何を言ってるのか分からなかった…)
地元の人の言葉やもの(雪景色含む)を見聞きして
遠くに来たと感じたりすることとか。
ただ、さすがに海外の北には行きたいとは思わなかったですけど。

たしかに自分の周りの人にもそうですが
なかなか思いを理解されにくい、
「なぜそんな所へいくのか?」の疑問に
明快な解を見出せないので
少しでもこういう思いを持っている人たちに
一度手に取って頂けたらと思う1冊でした。
(ただブームになるのは少し嫌かも)

海の見える街

2013年2月18日 読書
ISBN:978-4-06-217854-9 単行本
畑野 智美 講談社 発売:2012/12 1,575円

なんとなくどの辺かは推測できるのだけれど、
海のある街の市民センター内の
図書館または児童館に勤める男女4人の
それぞれの視点からの物語。

結婚した同僚を少し忘れられないながらも
新しく入ってくる人に心惹かれて行ったり、
逆にそれを少し良く思わなかったり、
そこにさりげなくかつ冷静に入り込んでくることがあれば
自身の気持ちが揺れてしまったり。

各々が少し影の事情を抱えていたりで
読んでいる側としては
表向きの明るく振る舞う部分よりも強く見えてしまうのだけど
主に4人の関係の中で
それぞれの考えや思いに変化が表れて
それが良い方向に進んだり、そっちでいいのかという方向に進んだり。

自分は似たような世代の人間と一緒に仕事をしたことがあまりないので
こういう近しい年代の人たちと仕事をしたり
休日を過ごしたりする関係や
それぞれが仕事仕事していない部分に
少しうらやましさは感じつつ。

4人の話に出てくる4種類の動物たちは
それぞれの話の主人公を投影したものなのか、
それとも主人公たちの理想の相方なのか、
名前の付け方にも何かあるのか、
いろいろ気になりつつ読んでみた1冊でした。


ISBN:978-4-02-251021-1 単行本
津村 記久子 朝日新聞出版社 発売:2012/11 1,890円

ターミナル駅から貨物レーン跡をくぐる長いトンネルを
通り抜けた先にある少し古めのビルディング。

そこに入居しているのは会社の事務所であったり、
飲食店街であったり、学習塾であったり。
もうすぐ取り壊しも噂されるビルの端っこの方の
雑多な空きスペースを隠れた休憩(サボり)場所として使っているのは
ある会社の営業事務の女性社員だけでなく、
学習塾に通う小学生、はたまた別の会社の男性社員だったり。

それぞれは最初は自分たちがそのスペースを
独占していると思っていたのだけれど
荷物の置き具合や、種々の物品の授受が行われる中で
小さな幸せが生まれていきつつ、
その外側では個々の周囲を少し賑やかす事件や自然事象が発生したり
という感じで徐々にビルの中での人間関係が
明らかになったり、新しくつながったりという中で話が進んで。

空きスペースの共有について、
それぞれが懸命に相手探しをするわけでなく、
自分たちの空き時間の合間に少しずつやり取りを交わしていく感じや
嵐の中で半分孤立したような形になったビル内の人々が
不安はあるものの、普段とは異なる状況を
こういう機会だからと少し楽しく共有したり、
人によっては思いがけない体験をして悲喜こもごもあったりで
読んでいてこういうふわふわしたつながりに心地よさを感じつつ。

他にもテナントの飲食店のごはんがやたらおいしそうやなぁと思ったり、
嵐が来ても商魂たくましく場所や物品の提供を行う
テナントの人々に感心したり、
エステのチラシの表情が気になったりと
現実的かつゆるい要素が所々にあって
ビジネスと生活感の合わさったような、
仕事とプライベートの垣根の低さのような、
心に少し遊びをもった、
または実際にこういう空きスペースを持った生活
を続けていきたいなという気にもなります。
それと主人公たちの心の中のツッコミの数々が好きです。

最終的にビルの行く末を
意外なところから見守ることになった主人公たちを含め、
ビルやビル内の人々の日常の続きが気になる1冊でした。
(何も変わらないかもしれないけど)
ISBN:978-4-04-100467-8 文庫
乾 ルカ 角川書店 発売:2012/9 620円

新刊で出た頃から気になっていたけれど
読む機会を逸しているうちに
文庫化されてしまった1冊。
1年ちょっと前の刊行だから
少し早いなという気はするけど。

駅からバス、バス停から徒歩10分ほどの所にある
「てふてふ荘」は格安の家賃で住むことが出来るのだけれど
そこにはそれなりの理由があって…。

6号室まである、てふてふ荘のそれぞれの部屋での出来事が
1話ずつの連作になっていて、
ここの居住者の中で起きる突拍子もない出来事や
そこからの心の変化によってそれぞれが少しずつ成長したり、
深く考える機会を得たり。

自分がこういう所に住むことになると平常心を保っていられるか
少し自信がないですが、
5号室の住人のように済んでしまうかもしれないし、
最初は多少引く部分はあってもそれぞれの優しさに助けられるかもしれなくて、
魅かれてしまう部分はあります。

ほんの少し不思議な仕掛けがごく自然に織り込まれているのだけれど
それが物語の鍵になるものになっていたりで
心の動きも個々によって正負さまざまで人間らしさを感じられて。

事象自体はともかくとして、
背筋が凍りつくようなぞっとする部分もなく
非常に読み進めやすかったし、読後感も安心できるものでとても良かったです。

夏のバスプール

2012年7月26日 読書
ISBN:978-4-08-775411-7 単行本
畑野 智美 集英社 発売:2012/7 1,575円

ある高校生の身の回りに起こる1週間の出来事は
夏休み直前の少し高揚した気分と
憂鬱な追試や予定の定まらない不安に対して
少し世界を広げる一手になりそうな予感
をもたらしてくれているようで
そのまま導かれるように
トントンと読み進めてしまいました。

暑さや梅雨の中の少し気だるい日常の中に
ちょっと身構えざるを得ない事情が突然やってきたり、
自分のものの見方他人のそれが違うということに改めて気付く機会を得たり。
ただ、深刻にも捉えられる事態をそれほど考え込むことなく
淡々と受け止めたりしている部分になぜか若さを感じてしまったり。

震災の次の年、夏休みの直前、13日の金曜日というところから
どうも本当の話のようで。
しまった、少し読むのが遅れた…。
実際にこの作品の舞台となったどこかでこういうことが起こっていたら…
当事者だったら少し大変かもしれないけれど
客観的に出くわすことが出来たらキュンとしてしまうかもしれませんね。

主な登場人物たちが高校1年生、ということは
16歳でちょうど自分の半分の年なんだなぁと思うと
少し遠くなった話の気もするけれど。
自分が高校生だった頃には
彼彼女のようにほんの少し気の効いた言い回しで
会話や日常を作り上げていくことが出来ていたかなぁと思うと
自信はないです。

著者は自分とほぼ同年代の方のようですけれど
今の高校生と触れ合ったりする機会があるんでしょうかね。
自分にはないので今の高校生も自分たちの頃と
そう変わっていないとよいなと思う部分もあり。

甘酸っぱさと疾走感の中で夏休みの訪れを
楽しんで待つことが出来そうな1冊だったなと思います。
ISBN:978-4-10-331981-8 単行本
津村 記久子 新潮社 発売:2012/6 1,365円

表題作を含む6編。

収められている内の『職場の作法』の4編は
以前『そういうものだろ、仕事っていうのは』で読んだもので
その時に仕事、ギジェルミーナ、ペリカーノジュニアの順かなぁ
とか思っていたのだけれど
やっぱり今回もその順番かなぁと思ったり。

その続きのような『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』は
海外のちょっとした有名スポーツ選手?と
自身の生活の経過を合わせつつ、
生活には重なりきらなくてそれぞれの生活が
全く違う所で続いていく所に
自分達の生きている部分を感じつつ。

表題作の『とにかくうちに帰ります』は
暴風雨の襲来を受けて
会社のある海沿いの埋立地から
家に向かおうとする人々のそれぞれの苦難や
個人の自分の時間に対する思いが
他愛もないお互いの会話から顕わになっていくようで。

こういう観点から考えると
個々人の幸せに思う部分は
ごくごく身近なもので
お金をかけるというよりは時間を楽しむというのに近くて
それは自分がもちたいと思うものと重なる所が多いのかなぁと。

交通機関が止まったり、雨風に晒されたりの
苦難に対しては悪態をつきたくなるし
そんな中でも意外なもの、それは見たいもの見たくないもの関わらず
遭遇することが出来たり、
そうした苦難を乗り越えられそうな兆しがあるからこそ
いつも感じているちょっとした幸せをより大きいものに感じられたり。

前週に通勤や通学と台風襲来が重なった方々も多かったと思われる中で
自分もそうで帰りと大雨が被ってしまい
思ったことは「早く着替えてごはん食べたい」
だったので。

個人的にはどれも今まで出た作品とともに
それもええなぁと思いつつ、
最近出たエッセイも含め今後も楽しみにしている作家さんの1冊です。

ISBN:978-4-480-03440-4 文庫
ポール・ギャリコ 筑摩書房
発売:1998/12 609円

猫がタイプライターで打ったと思われる文章を
人間が偶然に?入手し解読した
(この書はさらに英語→日本語に直した)
猫向けの生活マニュアル。

人間の家に上手く入り込む方法、
居場所を確保する方法、
おいしいものを食べる方法などなど、
時には自分を抑え、時には大胆な行動に出つつ、
自身の地位を気付いていく方法を事細やかに
後進の猫達向けに記しているようです。

うちにも実家に猫が1匹いるのだけれど
ここに書かれていることを知っていて
(ちゃんと日本に馴染む形でカスタマイズされていて)
その通りに振舞ったりしているんだろうかと思うと
ちょっと面白く感じたりもします。

以上、猫の日ということで取り上げてみた1冊でした。
ISBN:978-4-334-74165-7 文庫
森 博嗣/佐久間 真人 光文社
発売:2006/12 650円

最近いろんな書店に平積みしてある
『失われた猫』の9年前に
描かれた本を探していた所、
文庫になっているのを見つけたので
読んでみることにしました。

猫とちょっとレトロな街の風景が織り成すイラストと
「美」についてひたすら思索にふける猫たち。
それは建築家として造詣や機能を考える内に
つながっていったものであり、
輪廻転生や継続と変化にも関係するものであったり。

7、80ページの本ではあるのですが
英文併記とイラスト、それから文章そのものに
気を取られている内に
読むのに2時間ほどかかってしまいました…。
それくら中身の濃い本なのではないかなぁと思います。
文庫で読んだ分、イラストが単行本より小さいのが
少し残念ですがいい本を読めたかなと。

これで『失われた猫』の方も
期待を膨らませながら読めそうです。
2012年も読んでておっ、と思える本に
たくさん出くわすことができますように。

ISBN:978-4-04-394454-5 文庫
飛鳥井 千砂 角川書店 発売:2011/8 660円

東京郊外にある大型ショッピングモール、
「タイニータイニーハッピー」で働く人たちと
その人たちに関係する人々を
それぞれの章の主人公として描いた短編集。

運営元の会社で働く旦那さんとそのショッピングモール内の眼鏡屋さんで働く奥さん、
旦那さんの同僚、奥さんの同僚2人とそれぞれが付き合っている人、
しかもそれぞれの年齢が近い(主に20代後半)、
と主人公達は結構狭い世界の中で構成されているのだけれど
それぞれが抱える思うところや悩みを
他人からの言動や時間の経過によっていろいろ気付かされつつ、
解決や進展へと一歩一歩進んでいくようになっていて。

本当に仲がいいなぁと思う部分が描かれている部分が多いので
端々に出てくるちょっと避けたい存在(口うるさい店長とかクレーム客とか)
の方が生活や仕事の出来事としてはインパクトが残るように思われるのに
ここでは本当に端っこの方に行ってしまったりする部分はあるのだけれど
それほど大きなものではない幸せを日々噛み締めて過ごす主人公たちの姿に
多くの人たちがこうあればいいなぁとも思ったり。

自分中心に考えてしまいがちな時に
自分の周りにいる人たちがどんな風に生きているか、
ゆっくり考え思い直すのによい1冊かと思います。
ではまた来年も平和に過ごせますように。

ばくりや

2011年12月21日 読書
ISBN:978-4-16-380930-4 単行本
乾 ルカ 文藝春秋 発売:2011/10 1,575円

「ばくる」、
北海道の人は当たり前のように知っている言葉なんでしょうか?
初めて聞きました。

自身にとっては元々存在している、あとは入手した能力の中で
不必要・邪魔だと思うものを他の人間の何らかの能力とばくる、「ばくりや」の存在と
新たな能力を得た、または元の能力を失った後のそれぞれの人生の変化
を描いた短編集です。

他人から見ると羨ましいような能力も人生の邪魔になって捨ててしまい
それによって自身ないし他人がぞっとするような怖い影響を受けてしまったり、
一方でえっと思うような非現実的な方向に着地したり、
そもそもばくることが適わない者もいたり。

自分にはここでばくるに値するような能力があるかと言われると
すぐには思い当たらないけれど、もしあったとして
ばくることによって新たに得る能力を影響の大小に関わらず、
さらに有無を言わさず受け入れることができるか
と言われると自信はないです。
(そもそもここで出てくる人たちは自身の意思とは別に
 導かれるようにしてばくっているとは思いますが)

これを読むとこういうところで能力をばくれたらなぁ
と思う人もいるとは思うけれど
自分としては現状に不満や不運はあるけれど
それによって生じる幸運もしくはさらなる大事故の回避もあるかと思うので
現状を抱えて生きていくしかないなぁ
と考える1冊だった気がします。

虹色と幸運

2011年12月3日 読書
ISBN:978-4-480-80434-1 単行本
柴崎 友香 筑摩書房 発売:2011/7 1,575円

舞台は東京、
それぞれ大学職員、イラストレーター、主婦になった
大学時代の友人3人とその周囲を含めて、
進んでいく季節と共に綴られた小説。

それぞれに仕事や家庭があったりで
なかなか3人が揃うことはないのだけれど
家族や友人といった周囲の人を交えつつ
視点が細かく入れ替わっていくことで
リズム感良く読み進められた気がします。

各々の生活に希望あり不安あり、
個々に問題や事件は生じるのだけれど
それらの切迫感が薄く感じられるのも
当事者以外から見た感覚で描かれているからなのかなと。
実際他人の状況や気持ちを深く慮るのは難しいし、
この話全体の時間の長さから考えると
問題の大きさはこれ位の感じなのかもしれませんね。

また彼女たちの周囲の世界も
友人や自身の子供といった
あぁこういうこと言う人いるよねぇという人たちで構成されていて
実の子が不安でこっそり地元からやって来る親、
子供の中でのお姉ちゃんのしっかりっぷり
なんかは生活感というか
ちょっと関西人らしさがにじみ出ているかのように感じる部分もあり。

最後に人物相関図が付いているのだけれど
こんなに登場人物がいたのかと改めて思ったり。
3月から始まって2月までの1年を綴ってあるので
どの季節に読んでもいい小説かなと思います。
ISBN:978-4-08-771399-2 単行本
万城目 学 集英社 発売:2011/4 1,700円

京都、奈良、大阪ときて今回の舞台は滋賀。
特殊能力を持つ一族の末裔と本家の高校生と
はたまた別の特殊能力を持つ一族の末裔である
同級生との間に繰り広げられる
甘酸っぱい青春だったり、
そこに横槍のように入ってくる陰謀だったり。

舞台となる地域の特徴を能力に上手く織り込みつつも
お互いの能力が能力なだけに、仲が仲だけに
生かしきれない部分がもどかしいような傍目からみておかしいような。
とは言っても自分の身の回りにそんな一族がいても気付かないとは思うけれど。

あと、話の本筋とは関係ないけれど
本家の食事メニューのさらっとした豪華さも
ドタバタの中に一服の清涼感?を与えてくれているような。

最終的には滋賀という枠を少し超えた部分と
騒動につながるのが個々人の思いのつながりや積み重ねでできている部分に
架空かもしれないけれど歴史や人間の営みの重さを感じるところがあって
楽しくも懐かしさをもっても読めた気がします。

あっ、題名のしゅららぼんも読んでいる途中から
徐々に姿を現してきますので。
読む季節は少し遅くなってしまったので
次は舞台と同じ春に読んでみようかなと思った1冊でした。
ISBN:978-4-10-464504-6 単行本
森見 登美彦 新潮社 発売:2011/6 1,470円

森見さんの作品の舞台となる京都市内外の名所(?)
を著書から引用した文章とイラスト、写真で紹介した1冊。

中に挿入された随筆以外は著書からの引用なので
森見さん自身は何もしないでも本ができてしまうなぁ
とか失礼なことを思ったりしてしまったのだけれど
今日マチ子さん、根岸美帆さんのイラストと地図が可愛らしさ満点で
総合的に京都や作品の魅力がたくさん引き出されていて
読んでいて楽しかったです。

正直メジャーどころばかりではないので
観光案内そのものになるかは分かりませんが
吉田山に登ってみたくなったり、
叡山電車に乗ってみたくなったり、
下鴨神社の古本市に行ってみたくなったり、
カフェコレクションで鳥皮バターライスが食べてみたくなったり、
(先日一部は訪問してきた)
1日では回りきれない、観光コースができそうな気はします。

森見さんの作品をいろいろ読んでいる人には
作品の雰囲気と共に京都っぽさを感じられる1冊かなと思います。

ISBN:978-4-08-771395-4 単行本
津村 記久子 集英社 発売:2011/3 1,260円

まずは表題作の『ワーカーズ・ダイジェスト』。
生まれてこの方大阪で学び働き生きてきた女性と
大阪育ちではあるものの、今は東京で暮らしている男性、
この2人が仕事を通して偶然会った後に…という話。

それぞれが偶然を通した出会いを強く思うのではなく、
日常の些細な喜びや怒り、または不本意に出会う中で
の中でふと相手の存在を思い出したりする、
それは恋愛の対象と言うよりかは
自身はこう生きているけれどあの人はどう生きているのだろうかという感じで。

人によってはイライラしてしまうであろう事項を
その人は大切にしていたりしてそれを上手く口に出せなかったり、
仕事の中で意図していなかった方向から突っ込みを受けたり、
自分が何となく仕事の中で出くわしているであろう事項を表現していたり、
それを自分がそう返したいと思っている方法で返したり。
そこにちょっとした安心のような何かが生まれるような気がするのです。

それに加えて人が人と会っていく中で出てくる微妙な変化を
上手く描いていたりもして。
自分は大学卒業以来ずっと、東京なので男性の方に投影しつつも
関西の存在を懐かしく思いながら共感できる部分を覚えつつ。
正月を前後して描かれる話なのでそこで少しはましになればいいなと思いつつ。

もう1篇の『オノウエさんの不在』も自身たちの上司で仕事ができた
オノウエさんを軸とした代理戦争のような感じであり、
不在のオノウエさんを通して、自分自身の存在意義を見つけようとする部分があったり。

今いる組織の中で存在意義を見失いかけたり、
仕事をしている意味が自分の中で少しあやふやになったり、
そんな中でも少し安心できるものを探せると良いな、
と思いながら読めた1冊でした。
ISBN:978-4-16-778003-6  文庫
誉田 哲也 文藝春秋 発売:2011/2 660円

昨年文庫で出た『武士道シックスティーン』
から1年以上経って文庫が出たので続きを。

突然の別れが訪れた1年生の終わりからの続きで、
一方は福岡の剣道の強豪校に編入し、
指導方法や選抜方法に違和感を覚えつつ、悩みつつ。
東京に残された一方は頼りになるチームメイトや先輩が
いなくなり、後輩育成や自身のこと以外についても考える部分が多くなったり。

そんなこんなで公式戦では剣を交えることはなかった分、
既刊の『武士道エイティーン』にてどういう結末が待ち構えているのか楽しみで。
とは言っても読むのは文庫が出そうな1年後かなぁ。
でも楽しみに待つことにします。
ISBN:978-4-10-464503-9 単行本
森見 登美彦 新潮社 発売:2011/1 1,470円


『四畳半神話大系』と同じか、はたまた別物か。
京都を舞台とした四畳半及びその周囲に関わる短篇たち。
夜は短しやら、有頂天やら、走れメロスやら
他の作品でも見かけたような面々や事物が随所に散りばめられている中に
ブリーフやら阿呆神やら新しいというか単に未知だったというか
な何かが含まれていて。

もう学生でなくなってから7,8年経つのだけれど
こんな極端ではないにしろ、少しはあったと思われる大学生らしさ
をほんのわずかに思い出せるような気がします。
もう戻ることはできないけれど。

「蝸牛の角」のように小さな世界が
意外と大小問わずいろいろな世界につながっていく感覚と
「真夏のブリーフ」の夏の気だるい空気感の中での
大学生の1日を味わえるかのような部分、
「大日本凡人會」のような阿呆さと非現実的な部分が入り混じる中に
面白さと現実性を見出せそうな内容が個人的にはお気に入りでした。

また他に四畳半の世界を垣間見ることができるのなら
垣間見て見たいと思う1冊でした。
ただ新入生の方はいきなりこういう世界に憧れない方がいいかもしれません。

ISBN:978-4-04-197012-1 文庫
山本 文緒 角川書店 発売:2005/6 540円

31歳になりました。
というわけで31歳、それぞれの最優先事項を綴ったこの本を。

自分にも「偏屈」のような部分が少しあったり、
「旅」のように少し漂っているような時期もあったし、
ただこんな自由にやっているのが
いつまでも許されないとも薄々感じつつ
若干焦りながら日々を過ごしている部分があって。

そんなに華やかな生活を送っているわけでもないし、
また結婚しているわけでもないので
なんだか別世界かもと思う話もあるけれど
それが個々人の根幹になっているわけでもあるだろうし
別世界と言えども否定はできないなぁと思うわけで。

たしかに手放したくないものはいろいろあって
それは仕事やプライベートの中に散らばっているわけなのだけれど
それらをバランスよく保ちながら
自分の人生を築いていく必要があるのだなと考えると
まだまだ努力や気を付ける部分が多々あって
なかなか気が抜けないような気がします。

それぞれの短篇のような形ではないかもしれないけれど
同じものを優先事項に増やしてはいけそうな、
ただ何かを失う可能性もあるような、
期待感と不安感が入り混じったような感覚を覚えた1冊でした。
ISBN:978-4-408-53574-6 単行本
乾 ルカ 実業之日本社 発売:2010/5 1,575円


北海道を舞台にした6つのお話。


いじめられていたところに
夢や希望を抱けたのは動物園と・・・『真夜中の動物園』、
地震に遭遇した後に出くわしたおばさんの正体は…『翔る少年』、
大切にできなかった妻への後悔の思いが語られる内に・・・『あの日にかえりたい』、
15年前の約束を守るために訪れた場所に現れた・・・『へび玉』、
事故後の意識の中で走馬灯のように蘇る過去の日々、『did not finish』、
移り住んだ先で出会った木とその周囲を歩く老女から思い出される・・・『夜、あるく』。

それぞれの人にとって、あの日は
強い思いが引き寄せるものであったり、
不意に目の前で形になったり、
時には来るべくしてやってきたり。
それは手に入れようとしても手に入れられなかった、
残る人の思いと去らざるを得なかった人との思いによって
別の時間・空間が創り出されている様で。

自分にもここまで深いものではないかもしれないけれど
戻ってみたいあの日があって、
その時の自分に客観的に声をかけられるとしたら、
今ある未来を回避するような一言をかけられるかと考えてみると
最後の一歩で躊躇する気がします。

先日起こった震災を少し思い起こす部分もあり、
(北海道南西沖地震を基にした話があるので)
読む人にとっては少し辛さが増すかもしれないのだけれど
会えなくなってしまった人がもし強い思いを持っていて
すぐではなくても姿を現してくれることがあるのなら
生きていることの大事さを改めて思い返せるような気がするのです。

個人的には『へび玉』の後半に友人が口にする言葉と
『夜、あるく』の最後にぐっと来ました。
加えて先月北海道に行った時に(たぶん)訪れた土地や施設が出てきたこともあって
そう遠くない世界の感覚で落ち着いて読むことができた1冊だったかなと思います。

マラソン1年生

2011年2月22日 読書
ISBN:978-4-8401-3042-4 単行本(ソフトカバー)
たかぎ なおこ メディアファクトリー 発売:2009/10 1,155円

もうすでに2年生まで刊行されているけれどやっと1年生から。

ほとんど運動していなかった所に
友人とともに走る習慣や走り方を身に付けることから始まり、
いろんな大会に出つつ、距離も伸ばしていき、
ついにはホノルルマラソンまで。

短期間でこんなにたくさんの大会に出ていることに驚きなのですが
若干旅行要素もあって楽しそうで。
しかもホノルルマラソンも結構いい感じで走ってらっしゃるようだし。
これだけ生活の中に走る習慣を自然に組み込めているのは
羨ましく感じます。
中高は同じ陸上競技でも長距離とは対極の種目にいそしんでいた
自分としてもおいしいビールを飲むために少し走ってみようかなと思ったり。
(ごほうビールとはいい名前で)
それにしても編集さんはよく食べるなぁ・・・。

週末は東京マラソンなのでちょっと見物に行ってみようかな。
2年生の方も是非読みにかかりたいと思います。

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