ISBN:978-4-08-771395-4 単行本
津村 記久子 集英社 発売:2011/3 1,260円

まずは表題作の『ワーカーズ・ダイジェスト』。
生まれてこの方大阪で学び働き生きてきた女性と
大阪育ちではあるものの、今は東京で暮らしている男性、
この2人が仕事を通して偶然会った後に…という話。

それぞれが偶然を通した出会いを強く思うのではなく、
日常の些細な喜びや怒り、または不本意に出会う中で
の中でふと相手の存在を思い出したりする、
それは恋愛の対象と言うよりかは
自身はこう生きているけれどあの人はどう生きているのだろうかという感じで。

人によってはイライラしてしまうであろう事項を
その人は大切にしていたりしてそれを上手く口に出せなかったり、
仕事の中で意図していなかった方向から突っ込みを受けたり、
自分が何となく仕事の中で出くわしているであろう事項を表現していたり、
それを自分がそう返したいと思っている方法で返したり。
そこにちょっとした安心のような何かが生まれるような気がするのです。

それに加えて人が人と会っていく中で出てくる微妙な変化を
上手く描いていたりもして。
自分は大学卒業以来ずっと、東京なので男性の方に投影しつつも
関西の存在を懐かしく思いながら共感できる部分を覚えつつ。
正月を前後して描かれる話なのでそこで少しはましになればいいなと思いつつ。

もう1篇の『オノウエさんの不在』も自身たちの上司で仕事ができた
オノウエさんを軸とした代理戦争のような感じであり、
不在のオノウエさんを通して、自分自身の存在意義を見つけようとする部分があったり。

今いる組織の中で存在意義を見失いかけたり、
仕事をしている意味が自分の中で少しあやふやになったり、
そんな中でも少し安心できるものを探せると良いな、
と思いながら読めた1冊でした。

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