ISBN:978-4-408-53574-6 単行本
乾 ルカ 実業之日本社 発売:2010/5 1,575円


北海道を舞台にした6つのお話。


いじめられていたところに
夢や希望を抱けたのは動物園と・・・『真夜中の動物園』、
地震に遭遇した後に出くわしたおばさんの正体は…『翔る少年』、
大切にできなかった妻への後悔の思いが語られる内に・・・『あの日にかえりたい』、
15年前の約束を守るために訪れた場所に現れた・・・『へび玉』、
事故後の意識の中で走馬灯のように蘇る過去の日々、『did not finish』、
移り住んだ先で出会った木とその周囲を歩く老女から思い出される・・・『夜、あるく』。

それぞれの人にとって、あの日は
強い思いが引き寄せるものであったり、
不意に目の前で形になったり、
時には来るべくしてやってきたり。
それは手に入れようとしても手に入れられなかった、
残る人の思いと去らざるを得なかった人との思いによって
別の時間・空間が創り出されている様で。

自分にもここまで深いものではないかもしれないけれど
戻ってみたいあの日があって、
その時の自分に客観的に声をかけられるとしたら、
今ある未来を回避するような一言をかけられるかと考えてみると
最後の一歩で躊躇する気がします。

先日起こった震災を少し思い起こす部分もあり、
(北海道南西沖地震を基にした話があるので)
読む人にとっては少し辛さが増すかもしれないのだけれど
会えなくなってしまった人がもし強い思いを持っていて
すぐではなくても姿を現してくれることがあるのなら
生きていることの大事さを改めて思い返せるような気がするのです。

個人的には『へび玉』の後半に友人が口にする言葉と
『夜、あるく』の最後にぐっと来ました。
加えて先月北海道に行った時に(たぶん)訪れた土地や施設が出てきたこともあって
そう遠くない世界の感覚で落ち着いて読むことができた1冊だったかなと思います。

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