ISBN:978-4-16-328600-6 単行本
三浦 しをん 文藝春秋 発売:2009/10 1,575円

『まほろ駅前多田便利軒』の
生真面目な便利屋と何となく天才肌の相棒(居候?)が
東京郊外の街・まほろを中心に繰り広げる物語。
趣味や妄想全快のエッセイと
暴力や冷淡といったイメージの小説
の中間にあるような雰囲気はそのままで
帯にはスピンアウトとあるものの
続編と言っても差し支えなさそうな。

陽気で世話好きそうな娼婦さん、
街の裏の部分で幅を利かせつつある悪党な兄さん、
仕事としての見舞先のお婆ちゃん、
塾への送り迎えをしていた小学生と前作でもお馴染みの面々から
バスの間引き運転を主張する老人の奥さん、
まほろ市近郊にチェーン展開する洋食屋の女社長のように
はじめましての人物も登場したり。
人物によっては、
こういう人はこうあってほしいなという
著者の願望(妄想?)が入っているような気がしなくもないです。

便利屋として突拍子もない依頼にも
必要以上に依頼主に深く入り込まずに
形はどうあれ遂行しようとする彼らの周囲に広がる
人間模様は決して順風と言えるものばかりでなく
その人が生きている今や生きてきた過去を通して
それぞれの人物の影の部分が見え隠れしたり。

それでも仕事を通じて出会った人達との関係は
様々な太さでつながっていて、
そんなつながりが太くなったり細くなったり
時には切れたり新しくつながったりする様子に
荒涼とした世界に漂う冷たさの中に点々と存在する
暖かさのようなものを感じつつ。
それはたぶん情熱とか喜怒哀楽といった
人間らしさにあるように思います。

各篇の中で徐々に季節は変わりつつ、
少し含みを持たせて終盤を迎えているようで
あるのかは分からないけれど
続きへの期待感を持って読み終わった1冊でした。

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