ISBN:978-4-480-80417-4 単行本
津村 記久子 筑摩書房 発売:2008/12 1,470円

表題作と他一遍。

まず表題作の『アレグリアとは仕事はできない』。
仕事ってタイトルの通りなのかも。

主人公の働く会社に最新の触れ込みでやってきたアレグリア。
男性社員の元では忠実に働くのだけれど
主人公の元では反抗しっ放し。
どんな道具とも折り合いをつけてきた主人公がどうにもできないくらい
おてんばなアレグリアには実は…という話。
端から見れば単純そうな話なのに、と思うのは
使用者側、提供者側それぞれの事情が別立てで進行しつつ、
両者の接点がそれほど多くない上に踏み込まないこともあって
最終的に読み手だけが全ての事情を知り得る
というところにあるのかもしれません。

表向きは平静を装っている人間が一番の損害を被ったり、
敵だと思っていた人が実はそうでもなかったり
できると思われている人間が実はそうでもなさそうだったり、
会社って確かにそういう部分があるよなぁと思いつつ。

普段から一人悪態をついていて
怒りが頂点に達したあまり、
人がいない時間帯に暴挙に出てみたものの
その後を取り繕おうとする主人公の様子もなんだか憎めなくもあり。

そんな主人公自身も最終的にはアレグリアに助けられたような形になっていて、
結果的に人間も古くて忠実なものが
多少わがままでも新しいものに取って代わってしまった部分に
何ともいえなくなってしまいます。

もう一遍の『地下鉄の叙事詩』は
同じ地下鉄に乗り合わせた人達が遭遇する光景や事件を
4人の視点から描いてあります。

朝のラッシュ時間帯の電車って人の乗車マナーに対して
イライラする事があってそのイライラが表に出ないように
必死に押し殺していたりすることがありますし、
それとは別にえーっ?というものを見てしまう時もあります。

女性にとってはさらに不快感を感じる事象が増えますし
実際にそれに及ぶ男性の卑怯さに正対する事は難しいこともあって
なかなかなくなってくれないのが困った所で
こういう人間が二度と同じことを起こさないようにするには
と電車の中で考える時がありますがいまだ答えが見つからず。

ただそこに味方になってくれたり同じ考え方の人が現れるだけで
世の中の暴力や不条理に対して少しの希望が見えてきそうな気がします。


というわけで
くすっと笑ってしまう所と真面目になってしまう所がそれぞれにあって
それがそのまま読後感につながるような1冊だったかなと思います。

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