ISBN:978-4-8401-2136-1 単行本
木村 紅美 メディアファクトリー 発売:2008/1 1,260円

福田パン、イギリス海岸、光原社、小岩井、じゃじゃ麺、浄土ヶ浜。
これらのキーワードでピンと来たりいろいろ思うところがある
岩手県民の方は結構多いんじゃないのかなと勝手に思っています。

地道に盛岡に暮らし続ける姉と夢を追いかけて東京に飛び出した妹、
正反対の性格の双子の姉妹が交互に主人公になりつつ
徐々に登場人物が増えていき、という展開の短篇集です。
上に挙げたキーワードはそれぞれの短篇に絡んでいる事項だったりするわけで。

妹は東京が好きと言っても久しぶりに味わう故郷のパンの味に懐かしさを覚えたり、
仕事を放り出してイギリス海岸を見に岩手に戻ってみたり、
一方で姉の方は市役所で働きながら休日に街をぶらぶら、
地元の人とお見合いをしてみたりといった具合。

何でもない日常が描かれているのですが
文章全体に瑞々しさとか透明感というものがある気がします。
それぞれの短篇の中で少しずつ時間は流れていくのだけれど
岩手にある事物の存在はぶれなくて
何だか安心できるような懐かしいような心地になります。

自分は盛岡には1回立ち寄ったことがあるだけで
その時はたしか春で石割桜を見てじゃじゃ麺を食べて滞在数時間で去ったわけで
ゆっくりと街を見て周ることができたわけではなかったのだけれど
建物の隙間から見える雪が残る山々が何となく印象に残っています。
次行く時は是非福田パンのアンバターを味わってみたいものです。
年を経た彼女達のようにおやつ感覚で食べることはかなわないような気もしますが。

読んでいると故郷という存在が恋しくなりそうです。
自分の地元にもこういう短篇があればいいのになぁと思う1冊です。

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