ISBN:4-480-80394-7 単行本
津村 記久子 筑摩書房 発売:2005/11 1,470円

春に就職を控えた大学4年生の主人公
の大学生活最後の半年を中心に描かれた作品。

彼女の周囲にいる、または現れる人々は
普通に大学生活を送っているようでありながらも
それぞれに痛みを持っていて
それは時の流れの中で取り返しのつかないものであったり
時が積み重ねてきたものであったり。
ただそれを悲観したり後ろ向きになるのではなく
流れていく時の中で改めて方向転換というか何かを変えようとするところに
雲間から射す光のようなものを感じました。
(よく登場する人物の中では友人のオカノの痛みが出てこないのかな…?)

主人公自身もポチョムキンであることを少し気にしつつも
それを自虐的に取り上げたり、
バイトの暇な間に妙な替え歌を作って歌っていたりする一方で
子供の頃からいろんな痛みを積み重ねていて。
さらに人から痛みを告白された時に上手く言葉が返せなくて
それを何とかしたいのか、時に思い切った行動に出たりします。
寂しいような美しいような冒頭の情景がその1つだったりするのですが。

自分でも人から過去の痛みについて打ち明けられた時に
その場で適切な言葉を返すことができるだろうかと考えると
恥ずかしいことに今ですらなかなかできない気がします。

京都の街中の下宿風景や大学生活も良い感じですが
その裏の誰もしもが心の中に持つような影の部分の描かれ方が
非常に上手い1冊だなと思いました。

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